前立腺肥大症とは
男性特有の良性疾患である前立腺肥大症の患者は、現在、国内で51万人いると推計されています。
その多くが50歳以上となり ますが、前立腺は30歳代後半になると肥大しはじめ、60歳では半数以上に肥大がみられます。
85歳までにはほとんどの男性の前立腺が肥大しており、その4人に1人が前立腺肥大症の各種の症状が出ると言われております。
このように前立腺肥大症は極めて一般的な病態であり、高齢化社会が進むことに伴い患者数は今後ますます増えると予想されます。前立腺肥大症の治療法としては、まず薬物療法が用いられますが、薬物療法では症状が十分に改善されない場合、前立腺を切除する手術療法が選択されます。
治療について
前立腺肥大症の手術にはいくつかの方法があり、現在は特殊な電気メスを用いる方法(TUR-P)が主流となっています。また、旧来のレーザーを用いた手術法 (HOLEP/HOLAP)も実施されていますが、手術の難易度の点などから、まだ普及は一部にとどまっています。
欧米では前立腺肥大症のレーザー手術はほぼ蒸散術です。
当院ではこれまではグリーンライトレーザーを用いたPVP(光選択的前立腺蒸散術)を8年間で600例以上の患者さんに行っておりましたが、現在は2016年より保険収載された最先端の前立腺肥大症低侵襲治療として接触式レーザー前立腺蒸散術(CVP:Contact laser Vaporization of the Prostate)を行っています。
2020年3月、当院では前立腺肥大症の新しい治療レーザーThuliumレーザー(Quanta Cyber TM)を導入いたしました。このツリウムレーザー治療は当院で行ってきたAMS GreenLight HPSレーザーやCVPレーザー治療とはまた異なった患者さんへのメリットが期待される治療装置です。ヨーロッパ泌尿器科ガイドラインにて認められている治療方法です。
アクアブレーション(Aquablation)治療
薬事承認後初となるAQUABEAMロボットシステムによるウォータージェット前立腺肥大症手術を導入、国内初執刀
2023年7月18日、当院で薬事承認後初となるAQUABEAMロボットシステムによるウォータージェット前立腺肥大症手術を導入、国内初執刀をいたしました。この手術は2023年7月現在全国で5施設のみが受けられる最先端の手術です。
アクアブレーション(Aquablation)治療とは、前立腺肥大症に対する手術療法のひとつであり、ロボットおよびリアルタイム超音波を用いたウォータージェットによる前立腺切除の自動化と切除時間の短縮が可能となる技術が導入されています。
この技術では、手技者のマッピングによりロボットの動きが厳密に制御され前立腺組織の切除を行うことにより、安全に前立腺を切除することが可能で、術者による技術差がなく、あらゆる大きさ・形態の前立腺肥大に対してほぼ同じかつ短時間で手術は終了します。
アクアブレーションは水のみを使用するため、安全性が高く、既存の電気やレーザーによる熱による組織ダメージがありません。内視鏡を尿道から前立腺に挿入し、熟練の医師が適切な機器を用いて、わずか5-10分で治療できます。
その結果、前立腺が小さくなり、狭くなっていた尿道が広がり、尿の通り道が広くなります。最後に、内視鏡を入れ替えて術者が止血操作を行い手術が終了します。
熱ダメージがなく、性機能障害が少なく、術者の技量によらず、どのような大きな前立腺でも安定して短時間で終了することができます。
アクアブレーション(Aquablation)の合併症
経尿道的水蒸気治療(WAVE)
水蒸気を用いて前立腺肥大症を治療します。低侵襲かつ異物を体内に残さずに治療することが可能になります。
Rezum(レジューム)システムを使用して、103℃の水蒸気を9秒間噴霧し、前立腺組織を約70℃まで上昇させ組織を壊死する治療を行います。 既存の前立腺肥大症に対する温熱療法とくらべ、水蒸気を利用しているため対流によってムラのない治療効果が実現され、尿道粘膜や性機能温存を可能としています。
治療時間は15分程度で、治療効果は、おおよそ2週間程度、長くても3カ月後には排尿状態の改善が期待できます。
このような症状でお悩みの方へ
・薬物療法であまり効果がでない方
・外科的な治療のリスクが危惧されている方
・長期的にカテーテル留置をしている方でトイレに行ける方(自己排尿を目指す方)
・Urolift手術で体内にインプラントを残したくない方(特に尿路結石症になりやすい方)
治療の流れ
安全を考慮して手術後のバルーンを抜去できるまでの入院期間5~7日間で行います。
外来診療
前立腺肥大症の程度を検査し、今後の治療方針を決めていきます。 手術に対応できる身体か、検査を行います。 血液をさらさらにする薬(抗血小板薬)を内服されていても治療は可能です。
入院
入院翌日が手術になりますので、前日から入院し手術に備えます。
手術
手術前に麻酔を行うためあまり痛みはありません。 麻酔の効きを確認してから、尿道に膀胱鏡を挿入し、WAVE手術を行います。 手術は約15分後に終了し、尿道にカテーテルを挿入して尿道の確保を行います。
術後の経過観察
入院時は、痛みや尿の状況を確認、ばい菌などがないか経過を観察します。 カテーテルが抜去できる状況になったら、排尿ができているか確認し退院します。 その後、退院1カ月後に外来を受診していただき、退院後の状況を確認します。
再発時の対応
数年後に前立腺肥大症となり排尿困難となった場合は、WAVE手術かその他の治療を選択します。
術後の経過
・はじめのうちは前立腺がむくんでいるため術前よりも尿の出方が悪いことがあります。2週間後から3ヶ月の間に、徐々に前立腺のむくみが取れ組織が壊死し治療効果が現れるようになりますので少し気長に症状の改善を待ちましょう
・治療の効果が出てくるまで術前に内服していた前立腺肥大症の薬は継続します。
・カテーテルを抜去しても尿が出にくい状態の時にはカテーテルを再留置して1週間程度経過を見る場合があります。
・術前に尿閉(尿が全く出ない状態)で尿道カテーテルを留置していた患者さんや自己導尿をしていた患者さんでは、術後もしばらくの期間、尿道カテーテルの留置や自己導尿が必要となる場合があります。外来で経過観察しながらカテーテルの抜去、自己導尿の離脱を検討します。
経尿道的水蒸気治療(WAVE)の合併症
尿道の痛み・違和感
水蒸気注入やカテーテルによる尿道や会陰部の違和感・疼痛を感じることがあります。鎮痛剤などで対応します。
尿路感染症
稀に前立腺炎、膀胱炎などのばい菌感染症が起きることがあります。治療の際には抗生物質の投与を行います。
肉眼的血尿
穿刺した部分や壊死した前立腺組織から出血し血尿が出現することがあります。止血剤の内服などで対応可能なことがほとんどですが、稀に麻酔をかけ止血術が必要になる場合があります。
排尿困難
排尿困難の原因が前立腺だけでなく膀胱の機能低下にもある場合には、症状が改善しにくいことが予想されます。
排尿困難
・性機能への影響が少ない治療法ですが術前と全く同じ状態が維持されるかは個人差があります。精液量が減る可能性があります。
・しばらくの間、精液に血液が混じりますが異常ではありません。
・数ヶ月から1年以上たってから尿道が狭くなることがあります。
よくある質問
従来の手術との選択に迷った場合はどうすればよいですか?
従来の手術は、WAVEよりも排尿機能が改善されるため、当院では前立腺肥大症の手術の第一選択としています。
前立腺の大きさや、併用薬や、手術に対応できる身体の状況により、従来の手術では困難な場合にWAVEを選択する場合があります。
WAVEの入院期間はどれくらいでしょうか?
入院期間は約5~7日間です。
入院翌日に手術を行い、血尿の程度を見て手術4日後を目安に尿道カテーテルを抜去、尿の勢いの検査を行い退院となります。
手術に必要な検査は遠方の方以外は全て入院前の外来診察時に行います。
WAVEの費用はどれくらいでしょうか?
入院期間は約5~7日間です。
WAVEは保険適応となっております。保険の種類により費用は変わりますので詳細は外来事務窓口にてご確認ください。
手術に必要な検査は遠方の方以外は全て入院前の外来診察時に行います。
経尿道的前立腺吊り上げ術(Urolift)
前立腺の中にインプラントを埋め込み、尿の通り道を開通させ、排尿できるようにする治療法です。
今までの前立腺肥大症の手術と違い性機能を温存できる(逆行性射精や勃起機能不全が起こりにくいと)と期待されております。
UroLiftシステムによる治療法は「経尿道的前立腺吊上術」とも呼ばれ、米国泌尿器科学会と欧州泌尿器科学会の両方のガイドラインにて、前立腺肥大症の治療として経尿道的前立腺吊上術が推奨されています。世界中の一部の市場で、30万人以上の男性がUroLiftシステムで治療を受けています。
UroLift® System Procedure Animation
経尿道的前立腺吊り上げ術(Urolift)の合併症
尿道の痛み・違和感
治療後2~3日で改善します。痛み止めなどを使用し対応いたします。
尿路感染症
稀に前立腺炎、膀胱炎などのばい菌感染症が起きることがあります。治療の際には抗生物質の投与を行います。
肉眼的血尿
血尿が出ることがありますが、数日以内に改善します。
尿失禁
術後一過性に軽度の尿失禁が生じることがありますが、本手術では尿道括約筋は温存されるため大多数では速やかに改善すると報告されております。
結石付着
長期的には結石がインプラントにまとわりついてしまう可能性があります。
その場合には結石除去、インプラント除去処置を要する場合があります。
排尿困難
治療後も、うまく排尿ができない場合があり得ます。その場合はやはり尿道カテーテルを再度入れなければなりません。
Thuliumレーザー(Quanta Cyber TM)
特徴
ツリウムレーザー治療は現行の治療レーザーよりもさらに術中術後の痛み・浮腫(むくみ)が少なく、合併症も少ないことが特徴です。
当院が導入したツリウムレーザーの特徴は、水分子(全ての生体組織に存在する)に対する吸収率が高く、蒸散効率が手術当初から最期まで落ちなくて一定に保たれます。軟部組織を迅速に焼灼/切断しつつもレーザビームの組織への深達度は0.1-0.2mmと限定的で、周辺組織に対する影響が少なくて安全です。また最高出力200Wのハイパワーであり、全サイズの前立腺肥大症に有効であることがヨーロッパ泌尿器科ガイドラインでも証明され治療適応の幅が拡大し、次いで術後合併症の発生率が低いことも報告されています。
手術方法
前立腺組織に光ファイバーを接触させてレーザー光を照射することで、前立腺組織に高熱を与え、組織中の水分や血液を蒸発させ、組織を気化して消失(蒸散)させてしまう最新で低侵襲の手術方法です。
最大の特徴は出血が非常に少ないことです。古くからおこなわれている切除術(TUR-P:経尿道的前立腺切除術)では抗血栓薬を服用したままの手術は極めて困難でしたが、レーザー蒸散術ではそれが容易に可能です。そのため、これまで手術の適応があるにもかかわらず抗血栓薬を内服しているために断念せざるを得なかった患者さんにも安全に手術が可能です。
排尿症状は術後よりほとんどの方が速やかに改善し、手術時間も従来のレーザー蒸散術よりも短時間で済みます。術後の痛みも少ないこともメリットです。入院期間は約4~7日間と短期間での入院日数での治療が可能です。
初診時検査
尿顕微鏡検査、腹部超音波検査、尿流量検査など。
Ceralas® HPDレーザー
CVP(前立腺蒸散術)
欧米では前立腺肥大症のレーザー手術はほぼ蒸散術です。
当院ではこれまではグリーンライトレーザーを用いたPVP(光選択的前立腺蒸散術)を8年間で600例以上の患者さんに行っておりましたが、現在は2016年より保険収載された最先端の前立腺肥大症低侵襲治療として接触式レーザー前立腺蒸散術(CVP:Contact laser Vaporization of the Prostate)を行っています。
前立腺組織に光ファイバーを接触させてレーザー光を照射することで、前立腺組織に高熱を与え、組織中の水分や血液を蒸発させ、組織を気化して消失(蒸散)させてしまう最新で低侵襲の手術方法です。
治療成績
実際に当院で行われた治療成績を数多くの学会で発表しております(当院のFacebookをご覧ください。)
2016年にアメリカ泌尿器科学会総会(AUA)で発表いたしました射精機能温存PVPもご好評で、遠くは北海道から当院での手術を希望されて来院されておりました。CVPでも同様ですが、100%の術後射精機能を保証するものではありません。受診時にお気軽に主治医にご相談ください。
*治療費用は、1割負担の方で3~4万円、3割負担の方で10~12万円程度です(3泊4日入院の場合)。
*麻酔方法や入院期間により異なります。